抹茶ブームが世界に波及。人気の裏で深刻化する供給不足

近年、日本発のスーパーフード「抹茶」が国内外で大きな注目を集めています。
緑鮮やかな見た目と豊かな香り、そして健康志向にマッチした栄養価の高さから世界中で人気が急上昇中です。

特にアメリカやヨーロッパでは、抹茶ラテや抹茶スイーツが定番メニューになっており、InstagramなどのSNSでも写真が大量に投稿されています。

また、カフェやレストランがこぞって新メニューを開発し、セレブやインフルエンサーも愛用することで、その人気に拍車をかけています。

なぜ抹茶がここまでブームになったのか?

抹茶をたしなむ二人

抹茶がここまで支持される理由には、以下のような複数の要因があります。

1. 健康意識の高まりと「スーパーフード」としての評価

抹茶は、茶葉をまるごと粉末にして摂取するため、カテキン・テアニン・食物繊維・ビタミンなどを効率よく摂ることができます。
特に抗酸化作用が強いとされ、アンチエイジングやダイエットを意識する人たちの間で「抹茶=健康に良い」という認識が広がっています。

2. SNS映えするビジュアルと海外セレブの影響

鮮やかな緑色のドリンクやスイーツは、写真や動画でも一目でオシャレと感じられるため、SNSでの拡散力が非常に高いです。
抹茶を使ったレシピ動画やレビューは再生回数も多く、特にZ世代やミレニアル世代の注目を集めています。

3. 日本文化ブームの流れに乗る

寿司、ラーメン、アニメに続く“ジャパニーズカルチャー”として、抹茶が注目されています。
「茶道体験」「和菓子とのセット」など、日本らしい体験の一部として楽しむ外国人観光客も増加中です。

ブームの裏で起きている「抹茶供給不足」という問題

抹茶栽培

抹茶人気が高まる一方で、いま日本では深刻な供給不足が起きています。
店頭では抹茶パウダーが品切れになり、老舗茶舗では「購入制限」がかけられるケースも出てきました。

その背景には、いくつかの問題が絡んでいます。

1. 急激な輸出増加と円安

海外からのオーダーが急増し、日本産抹茶は今や輸出の主力商品となっています。
2023年には日本茶の輸出額が過去最高を記録。その多くが「抹茶」でした。

特に円安の影響で、輸出による利益が大きくなったため、国内供給よりも海外出荷が優先される傾向にあります。

2. 生産現場の高齢化と人手不足

抹茶の生産には高度な技術と手間が必要です。
しかし茶農家の多くは高齢で、後継者不足により生産体制を維持するのが難しくなっています。
石臼での粉砕作業は1時間で40gしか作れないこともあり、大量生産には不向きなのです。

3. 栽培面積の限界と気候変動

高品質な抹茶の原料となる「碾茶(てんちゃ)」は、特定の地域でしか育ちにくく、栽培面積の拡大が容易ではありません。
さらに近年は気候変動の影響で、霜害や干ばつによる収穫量の減少が課題となっています。

4. 転売による需給の歪み

ブームに乗って、高品質な抹茶が転売目的で大量購入される事例も増えています。
一部の通販サイトでは、日本の定価の数倍の価格で取引されることもあり、国内の一般消費者が入手しにくくなっているのが現状です。

日本の常連客「買いたくても買えない」

抹茶の粉

京都宇治の老舗店では、連日外国人観光客が行列をなし、一人で何缶も購入していくケースが増えています。
その結果、常連の日本人客が「いつもの抹茶が買えない」と困惑する事態も発生しています。

また、東京の抹茶専門カフェの店主は「良質な茶葉の争奪戦が起きている」と語り、カフェ経営にも影響が出ているといいます。
卸売業者からも「新規顧客への販売は厳しい」という声が上がり、ブームの陰で供給の限界が露呈しています。

今後の展望と期待される取り組み

今後、抹茶供給の安定に向けて、以下のような取り組みが進められています。

鹿児島など新興産地の台頭

抹茶生産量で京都を上回るほどに成長している鹿児島県では、新設の工場や生産体制の強化により、全国の約4割の碾茶を供給するまでに成長しています。
機械化や若手の育成を進め、持続可能な抹茶産業を目指す動きが広がっています。

他の日本茶との分散戦略

抹茶一極集中のリスクを避けるため、煎茶や焙じ茶、和紅茶などにも注目が集まっています。
「次の日本茶トレンドは何か?」という視点で、業界全体の活性化が期待されています。

技術革新による効率化

AIやIoTを活用したスマート農業や、粉砕技術の進化による生産性向上も今後のカギとなります。
品質を保ちつつ、より多くの人に届けられる体制づくりが求められています。

ブームの末に

抹茶を点てる

抹茶の人気は、今後も続くと予想されます。
その一方で、伝統的な生産体制や文化を守りながら、いかに持続可能な供給を実現するかが大きな課題となっています。

この記事を読んで、もしあなたも「本物の抹茶を味わいたい」と思ったなら、ぜひ信頼できる茶舗やカフェでゆっくり味わってみてください。
ブームの先にある“本当のおいしさ”と“日本の美意識”に、きっと出会えるはずです。